後天性血友病とは

後天性血友病Aの初発症状と診断法

天野 景裕 先生

監修:東京医科大学 臨床検査医学講座
天野 景裕 先生

後天性血友病Aを見逃してはいませんか?

後天性血友病Aを見逃してはいませんか?

先生方はこの写真、イラストのような症例に遭遇したことはありませんか。出血傾向の既往歴や家族歴がないのに、突然、広範な皮下出血や筋肉内出血が生じた患者さんです。この患者さんは、後天性血友病Aである可能性があります。

後天性血友病Aは適切な処置を怠ると、大量の出血が続き、患者さんが死亡することも少なくありません。そのため、早期に発見、確定診断を行い、適切な止血処置を講じることが重要です。こうした突然の出血傾向を示した患者さんに遭遇したら、後天性血友病Aである可能性を念頭に置いて診療を行う必要があります。

後天性血友病Aとは何か

後天性血友病Aは、血液凝固第VIII因子に対する抗体(インヒビター)が発生し、血液が固まらなくなり、広範な出血が生じる疾患です。後天性血友病Aの原因、つまり第VIII因子に対するインヒビターが発生する原因はいまだ明らかではありません。男性に主に乳児期から発症する先天性血友病Aとは異なり、高齢者や女性にも認められます。

後天性血友病Aは、年間に100万人あたり1〜4人で発生すると報告されており、稀な疾患と考えられてきましたが、近年疾患認知度が高くなるにつれ、報告が増えてきています。一般医が日常診療で遭遇する可能性もありますし、血液内科には一般医や他科からの紹介があると考えられます。

後天性血友病Aの背景因子と基礎疾患

わが国で実施された後天性血友病Aに関する実態調査では、後天性血友病Aは男女ほぼ同数発生すること、高齢者に多いこと、20〜30歳代の女性では分娩後に生じることが多いことなどが明らかになりました(図1)。抜歯・手術後、筋肉内注射、中心静脈ライン挿入後、膀胱カテーテル挿入後などをきっかけに出血症状が明らかとなった例もあります。

【図1】後天性血友病A患者の年齢・性別分布

また、基礎疾患として自己免疫疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど)、悪性腫瘍が多いことが分かりましたが、基礎疾患のない方も約40%おり、多様な背景から発症してくると考えられます(図2)。

【図2】後天性血友病A患者の基礎疾患

初発症状の出血部位はどこが多いのか

先述した実態調査では、後天性血友病Aの初発症状は皮下出血が最も多く、筋肉内出血と合わせると全体の約70%を占めること、他には消化管、関節、後腹膜などにも出血が生じることが明らかになりました(図3)。先天性血友病Aで頻繁に認められるような関節内出血はあまり生じないことがひとつの特徴です。

【図3】後天性血友病Aの初発出血部位

こうした特徴をまとめると、後天性血友病Aは、男女ほぼ同数で発症し、高齢者や女性も発症し、基礎疾患がなくても発症し、初発症状は皮下出血、筋肉内出血が多いということになります。

後天性血友病Aの診断の流れ

【図4】後天性血友病Aの診断の流れ

【図4】後天性血友病Aの診断の流れ

次に、後天性血友病Aの診断の流れについて説明しましょう。

後天性血友病Aは、(1)出血傾向の既往歴や家族歴がなく突然の、広範な皮下出血、筋肉内出血症状があれば疑い、(2)APTTの延長が認められれば(血小板数、PTは正常)さらに検査を進め、(3)第VIII因子活性が低下し、(4)第VIII因子に対するインヒビターが検出されれば確定診断となります(図4)。

一般の施設で、第VIII因子活性や第VIII因子インヒビターの結果を得るまでに長時間かかる場合には、簡便な方法としてAPTTクロスミキシング試験を実施することが参考となります。被検血漿に正常血漿を各種比率で混合し、APTTを測定すると、APTTの延長が凝固因子欠乏によるのか、阻害物質(インヒビター)の存在によるのかを鑑別することができます。図5に示すように先天性血友病Aでは、正常血漿の添加によりAPTT延長は容易に補正され、下に凸のパターンを示します。一方、阻害物質の存在による場合は、APTT延長が補正されにくく、上に凸もしくは直線的に低下するパターンを示します。

【図5】クロスミキシング法によるインヒビターの検出

APTTクロスミキシング試験の注意点

【図6】37℃2時間インキュベーション後のAPTTの変化

【図6】37℃2時間インキュベーション後のAPTTの変化

抗第VIII因子抗体は時間と温度依存性にその活性を阻害するため、正常血漿との混和直後では抗体が十分に反応せず、明らかな上に凸のパターンは呈しませんが、37℃のインキュベーションによって2時間後には、はっきりと上に凸のパターンを示します(図6)。
APTTクロスミキシング試験を実施するときは、必ず混和直後と37℃2時間インキュベーション後の2回、APTTを測定することが推奨されます。

後天性血友病Aを見逃さないために:他科との連携の重要性

後天性血友病Aは、早期に適切な処置を講じないと死に至る重大な疾患です。出血傾向の既往歴や家族歴がないのに突然、広範な皮下出血、筋肉内出血を生じた患者さんに遭遇したら、後天性血友病Aを疑い、迅速かつ適切な対応を心掛けて下さい。また、後天性血友病Aの患者さんを見逃さないためには、病院内で他科との連携を深め、この疾患の認知度を高めていくことが重要だと考えます。